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二子渉

ジャッジすることが癒しをもたらす例〜続「自分を大きく見せる防衛」の子育て

更新日:2022年12月31日

今年中1になったうちの息子くん、もともとはものすごく口が悪かった。

実の母親の桂子さんはじめ、学校の友達とかにもよく「死ねーーーっ!!!!」って怒鳴ってました。友達にLINEでものすごい数の「死ね!」を送りつけたこともありました。


それで桂子さんがある時本人に、それはよくないと話をしたんですよね。

色々な気持ちはあると思うし、そういう気持ちを感じたり表現したりしちゃいけないということではない。でも誰かに対して「死ね」という言葉は言っちゃいけない。

みたいなことをね。

今後、いうのをやめられるか、と尋ねたら、


「自分を守るときには、これからも言わないわけにはいかない」


と彼は言ったの。

それを聞いて僕は何とも胸が痛んだのでした。



***



これはGFLのアーリートラウマでいうところの「自分を大きく見せる防衛」の心理そのもの。


この世界は油断ならない危険な場所で、自分の身を自分で守らなければいけない殺るか殺られるかの世界。

なめられてはいけないし、自分で何とかしなくてはいけない。だって最後には誰も守ってくれないから。


そういう傷つき方をした傷の反応。


別の学派では「裏切りの傷」と呼んでいる学派もあって、他者への信頼が傷ついているし、「パワー」への信頼が傷ついている。



もし小さい子が健全に発達していたら、自分よりも大きいパワー(直接的には親)は自分を守ってくれるものだっていう安心感を学習できる。よちよち歩きしてても、危険があったら見守っている親がとんで来て、抱き上げるとかどうにかしてくれるわけ。

ここがうまくいかないと、自分よりも大きいパワーは自分を傷つける危険なものだ、パワーで勝たないと傷つけられるのだ、と学習してしまうのです。


息子の周りには、健全にパワーを行使して彼を守ってくれる人が乏しかった。とくに約束を守ったり、かっちりと公平なルールで筋を通したりできる大人、そういう風にパワーを使える大人がいなかったようでした。


その甲斐あって暴力的な不良に育っていくレールにバッチリ乗っていました・・・。



***



たとえば桂子さんは、彼に境界線を越えてベタベタくっつきに行くし、彼から1回だけと言われて、わかったと答えたはずなのに3回くらいくっつきに行ったりする。


マイナスばかりではなくて、関わりがたっぷりあるという母性的な点は彼にはすごくプラスだったけれど、それはそれとして父性的な意味ではマイナスも大きかった。



そんなわけで、僕が父性担当になったのでした。


ダメなものはダメ、と公正なルールに則ってはっきりしっかりジャッジする。そういうパワー。


とはいえ公正なルールって、完璧には無理です。僕だってわかんないところがある。

でも約束は守るとか、合意して決めたルールは守るとか、そういうところはわかるし、本来人は公正さの感覚を知っていると僕は信じてるので、できるだけその意識で関わるようにしたのでした。



***



たとえばさっき書いた、桂子さんがくっつきにいく話でね、彼にちょっとしたお願い事をされたら(お菓子持って来てほしいとかいうレベルのね)、それを叶えてあげるかわりに一回くっつかせろ、みたいな交渉を当時よく二人でしていました。


それで、じゃあ1回ねとか2回ねとか二人で合意してるんだけれど、桂子さんがその約束をいともたやすく破るわけ。彼女自身も親からそうされてきて、あたりまえになってた。


そういうときに僕が「桂子さん、それは約束が違うでしょ」と釘をさすようにしたの。


そしたらだんだん彼が、ことあるごとに僕に言いつけに来るようになりました。「ママがね〜、こんなふうに約束破った!」って。


そしてそのたびに僕は出向いていって、桂子さんに「それはダメだよ」と言うようにしていました。


ちなみに桂子さんにはあらかじめ説明してあるの。彼の前で桂子さんのことを批判するけれど、そういうことだからねと。

彼女も、自分はそういうところは不得意だから、お願いするねといってくれてたわけ。


で、話は戻って、毎日何回も彼は「あ〜っ!」て大声出して、僕を呼んでいいつけて、僕がジャッジするようにしてた。


これは「彼の味方をする」ということじゃあないの。公正さに守られる、という体験をしてもらっている。息子が約束をたがえた時も同じように指摘しました。約束したのだったら、それは果たすのが責任だと。



***



そのうち彼は、だんだん桂子さんを引っ掛けるようなやりかたも試すようになりました。

わざわざ彼女がくっつきたくなるようなところまですり寄っていって、くっついても良さそうなそぶりをして、でも言葉では「いいよ」と言っていない、みたいな感じで。


桂子さんはそれに引っかかっては、「え〜、だって今のはくっついて良さそうにしてたじゃん」とか言って、息子は「でもいいなんて言っていない」って言って、僕が「いいと彼が言っていないなら、桂子さん、ダメです。」と判定する。

それで桂子さんが「わかった。ごめんね」と彼に謝る。


場合によっては僕が桂子さんに、「だってじゃないよ。そしてごめんって言えばいいってもんじゃない。ちゃんと約束を守る行動をしなきゃ意味がないんだよ。」とやや厳しく叱責する役をやったりもしました。


そういうやり取りが、儀式のように毎日何度も繰り返されました。

正直忙しい時など、またかよ、もういいじゃんって、けっこうめんどくさかった瞬間もあるのですが、大事なことだからなあと続けていたんです。


桂子さんもだんだんと、約束やルールを破ることがなくなり、公正なルールでダメなものはダメと彼に対していうようになっていった。



***



そんな風にして数ヶ月経って、あるとき気づいたら彼はすっかり変わっていました。


「死ね!」という言葉は誰に対しても全く言わなくなっていた。ゼロ。


桂子さんとの間でも安全を感じて、荒れなくなっていました。


言葉遣いのガラの悪さは残っているものの、「ガラの悪い言い方されるのやだな」と伝えると、ばつが悪そうにしつつ、オープンなコミュニケーションに切り替えようとします。


これは彼の中で、パワーを持っている人は自分を守ってくれる、という信頼がずいぶん回復したことを意味しているのでした。彼にとって世界は以前よりも安全で優しい場所になったはず。大人は信じてもいい存在にすこしはなったはず。


こんな変化にある日、桂子さんと二人で気づいて、「おおお、すごいね。彼は変わったね。」と喜び合ったのでした。



ジャッジすることが癒す一例です。



だいぶ嬉しいから、ちょっと自慢げに書いちゃったけど大目にみてくださいね。


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